私たちの子ども達は、医療とつながりを持ちつつ、成長し、毎日を過ごしています。医療というと、先ず、治療・手術や検査が思い浮かびますが、現在、先天性の疾患などについてのカウンセリングが行われていて、それを活用することにより、様々な相談をしたり、情報を入手したりすることができます。
これまでに指導医として、多くの遺伝カウンセラーの先生方を輩出していらっしゃっている東北大学東北メディカル・メガバンク機構 遺伝子診療支援・遺伝カウンセリング分野 川目裕先生よりご寄稿を賜りましたので、ご紹介いたします。
みなさん、「遺伝カウンセリング」という医療サービスをご存知ですか。あるいは受けられたことはありますか。
最近、新聞などのメディアで、「遺伝カウンセリング」という言葉が、時折、見受けられるようになってきました。現在、遺伝性疾患・先天性疾患(先天異常症)・がんの診断のための遺伝学的検査(遺伝子診断)の前などに、さらには出生前診断の検査を受ける前や結果の説明の際に、この「遺伝カウンセリング」が医療機関で提供されています。
遺伝カウンセリング(genetic counseling)という概念は、1947年にアメリカの分子遺伝学者のSheldon Reed氏が初めて提唱しました。我が国では、1970年代に、「遺伝相談」という形で「遺伝カウンセリング」の普及が始まったとされます。
遺伝カウンセリングとは、医療保健の場において、クライエント(患者)とその家族の目的に応じて、相手が理解出来るようにわかりやすく、正確な情報の提供を行い、その情報を理解したクライエントの心理社会的な側面を援助しながら、意思決定や疾患とともに生きることの適応を一緒に考えてゆく対話のプロセスです。
すなわち、遺伝カウンセリングは、それぞれのクライエントに合わせた「情報提供」と「心理社会的援助」がカップリングされており、そして大切なことは正確かつ最新の「情報提供」があって、初めて納得ゆく意思決定や心理面の援助が可能となるということです。「遺伝カウンセリング」が心理カウンセリングや心理療法とは異なるユニークな医療サービスである理由です(「遺伝カウンセリング」の定義等については、日本医学会のガイドライン(PDF)を参照ください。
また、遺伝カウンセリングは、2つの「どうして?」に対応することとも言われます。
例えば、子どもに染色体疾患のあることがわかり知った時、親は「どうして?」という問いを持ちます。この問いには、しばしば「Why did this happen?」と「Why did this happen to me? Why our child?」の2つの側面を持つとされます。
即ち、前者は原因が何なのか等の認知面の問いです。一方、後者は、どうして、あえて、うちの子なのか、私たちなのかという気持ちであり、科学的な説明だけでは解決の難しく、哲学的、実存的な問いとも言われます。この2つの側面の両方に、丁寧に対応するのが「遺伝カウンセリング」と言えます。
2つの「どうして?」は、個々に対応される訳ではありません。2つの「どうして?」は互いに共鳴します。情報提供の内容を受けて生じた新たな「どうして?」という心理面への援助も平行しながら行われます。このように「遺伝カウンセリング」とは、クライエントの必要に応じて、正確な「情報提供」を核として「心理社会的側面の援助」が様々な強弱をもって提供されるものです。
大学病院の遺伝子診療部や遺伝子医療センター、また小児医療専門のこども病院の遺伝外来などのウェブページを訪れてみると、この「遺伝カウンセリング」という診療の案内が掲載されていると思います。
また、一部の保険診療の遺伝子診断の際には、遺伝カウンセリングが必須となっています。染色体検査を考えるとき、ライフステージに沿って医学面や生活面で疑問があるとき、次子のことやきょうだいのことを考えるときなど、「どうして?」という想いがありましたら、是非、「遺伝カウンセリング」というサービスの扉をノックしてみてください。遺伝カウンセリングの専門家(臨床遺伝専門医,認定遺伝カウンセラー)が対応します。ご希望に沿って遺伝カウンセリングは1回で終わらず、何度でも遺伝カウンセリングを受診することができます。
2018年6月
東北大学東北メディカル・メガバンク機構
遺伝子診療支援・遺伝カウンセリング分野
教授 川目 裕